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​賛同者紹介

​印西市・学校適正配置を考える会

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ケビン ショート

元東京情報大学教授

​ケビンの視点・論点

印西市はマジにユニークな街。市の中央部には、千葉ニュータウンという快適な超モダーンな新住宅街が広がっている。ニュータウンはマンションと一戸建が適切に交じり合って、ショッピングからエンタテインメント、フィットネス、ダイニングなどなど、最先端の都市型アメニティは文句なし揃っている。また、都心へのアクセスも抜群で、日本の表玄関である成田国際空港までは直行電車で20分。最近、この好立地条件を生かして、倉庫・物流拠点の産業も活発に発展している。

 

 一方、ニュータウンの周囲には、日本人の心に深く共感する里山景観が広く残っている。雑木林、山林、小川、ため池、田んぼ、畑などの自然と、古代からこの自然と寄り添いながら暮らしてきた集落がニュータウンのマンション群と隣り合わせている。印西人なら、美味しいお米は勿論、一年を通していつでもとれたての野菜で家の食卓を彩らせることができる。地域独自の自然と歴史、文化の宝庫である里山と、おしゃれな住宅街の両立こそ、印西の最大な魅力に違いない。ニュータウン滞在35年のぼくはこのことを確信している。

 

 ところが、悲しい現状として、ニュータウンがぐんぐん発展していくのに、危機が迫ってくる里山集落が少なくない。人口減少や農業離れ、高齢化などの社会問題が深刻さを増して、以前のように元気な集落を維持していくことがだんだん難しくなってきている。このなか、集落の結合とアイデンティティを保つという大事な役割を果たすのは、地域の小学校。子供の声は集落を潤い、元気をもたらしてくれる。また、学校を通して集落の親たちの繋がりも強くなる。

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小さな里山学校を投じて、里山集落の子供たちを住宅街の大きな学校に通わせる方針はたしかに、数字的に考えると効率が良い。とはいえ、里山の大切な自然と暮らしを保っていく立場からみれば、たとえ効率が少し悪くなっても、地域の小さな学校を生かした方がぜんぜん望ましい。逆に、住宅街の住民の中でも、大勢の子供たちをぎゅうぎゅう詰め込み、いつも大忙しの大きな学校よりも、ゆったりとしたマイ・ペースの小さな学校の方を評価する若い親も少なくないだろう。子供一人ひとりの個性を伸ばして、子供の視野を広げて、すべての子供に自分なりの志と価値観を持たせる教育。このような教育を提供する余裕があるのは、自然と歴史、暮らし、伝承文化に包まれた小さな里山小学校こそ。

 

 ぼくはこの一年半のコロナ渦の中、マンションに籠って写真を整理したり文章を書いたりして長い時間を過ごした。一年以上、1回も電車に乗らなかった。しかし幸い、ぼくのマンションから出たら、ニュータウン周辺の里山景観がすぐそこに待っている。この里山景観のウォーキングやサイクリング散策こそがぼくにとって唯一の救いになった。

 実は、コロナ過中、とっても多くの人たちがウォーキングやサイクリングを始めたような気がする。勿論、体調維持の目的もあったが、ぼくはそれだけでは説明が付かないと思う。やはり、われわれヒトは本来、周囲の自然、歴史や伝承文化、スピリチュアル文化などを通して、心の中で景観と深く繋がっているはず。ところが、この半世紀、その繋がりが急に弱くなったり断たれたりしてきた。コロナ渦中で、大勢の人たちは本能的に、ウォーキングやサイクリングに出かけて、里山景観との繋がりを少しでも取り戻そうとしたのではないかと、ぼくは見ている。

 

 今年の秋ころ、ワクチン接種のおかけでコロナ渦がやっと鎮まると思う。しかし次なる未知のウィルスが地球のどこかで潜んでその出番を待っているに違いない。これからのアフター・コロナのニュー・ノーマルと上手く折り合って行くため、印西市の子供たちをニュータウン内の数か所に密に集めるよりも、市の広さを生かして子供たちを出来るだけ平等に分散させた方が妥当。

 また、人類にとって感染病を超えるほど大きな脅威である地球環境問題が、よりいっそう激しさを増している。現在の地球環境問題を正しく理解して、人と自然の未来について想像的に考える力が必要となってきた。このような新しいスタイルの地球住民を育てるのに、理科や社会の教科書勉強だけではなく、体験を通して自然と直接に触れ合って、人と自然の関わりを肌で感じることも望ましい。印西市なら、市内に広く残っている豊かな里山景観を教育資源として生かして、市内の全ての子供にフィールド自習の機会を与えることが可能。里山小学校はこのようなフィールド自習の拠点として位置付ければ、里山の暮らしに活気を吹き込むと同時に、市内の全ての子供に一生忘れない貴重な経験を提供することができる。

新住宅街と里山の両立は印西市ならではの唯一無二の宝物。

 

 しかし今のペースで行けば、新住宅街と里山を分割させて、折角の宝物を無駄にする可能性まで出てきている。新しく来る地球環境の時代に踏まえて、ニュータウンとその周囲の里山を有機的に融合させて、国内だけではなく、世界的にも評価されるオンリーワンの素敵なまちづくりを目指すべき。

 統合した印西市で、子供にとって素敵なまちを実現するために、教育方針を考え直した方が良い。里山小学校を閉めることではなく、それを新住宅街と里山を混合させる拠点として生かすこと。まずは、市内の全ての親に自分の子供の教育環境に選択の幅を与えるシステムを構築すること。必要に応じて、子供の歩きやすい道路整備やスクール・バスの活動も考えられる。数字的な効率だけを優先する教育方針から、子供の心身のケアーや、子供と自然、文化、歴史の関わりを大切にする教育方針に切り替えれば良いと思う。

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